ヨルシカの最新作「創作」e.pはまるで一作品の小説のようだった

2021-02-11

初のディスクレビューとなるのは、1月27日に発売したヨルシカの「創作」です。

ヨルシカはコンポーザーでありギターのn-bunaさんボーカルのsuisさんによって2017年に結成された2人組バンドです。現時点で2人の顔出しはないものの、想像を駆り立たせる、それはまるで“短編小説”のような作品たちは若者の心を惹きつけ、「負け犬にアンコールはいらない」、「だから僕は音楽を辞めた」、そして一度は耳にしたことがあるであろう「ただ君に晴れ」などのヒットを出し、今勢いの止まらないバンドです。

今作はEP盤ということで5曲入りの内容となっております。前作のフルアルバム「盗作」から7ヶ月、早くもリリースされたヨルシカの新たな物語たちは私たちに何を見せてくれるのでしょうか・・・。勢いを増していくヨルシカの最新作をレビューしていきます!

※当のブログのレビューは、あくまでも主の感じた印象です。解釈の違いはあろうかと思われますが、温かい目で見ていただければ幸いです。

強盗と花束

ミュート気味のリフで今回の作品は幕を開けます。タイトルにもある“強盗”というワードはどこか前作のアルバム「盗作」に通ずるような世界観で、曲の主人公はどことなくサイコパスを感じる印象を持ちます。

善悪や常識なんてものは死んでしまえば何の意味もなく、人によって与えられるものが違うのならば自らの手で奪ってしまえばいいという何とも犯行的な思想に感じますが、結局は不平等であることにどこか納得させられてしまいます。

死んでしまう“貴方”に花をあげたかったが、金がなく盗むことに。しかし実際に“貴方”が居なくなって(死んで)しまって主人公は絶望します。盗んだ花屋の主人は盗んだことを咎めませんでした。

強盗したもの、その花束に違いはあるのでしょうか。「貴方のためを想った花束」であることに変わりはないのです。

一曲目から物語の中へトリップさせられてしまう世界観…。歌詞を見る限り主人公の思想や行動は「悪行」であると分かるのに、その衝動的な心情にどこか共感してしまうような誰しもが持っている闇を感じました。またボーカルのsuisさんのひっそり闇を感じる歌い方もこの曲を表現するためのテクニックが素晴らしいですね!(何様)

タイトルだけ見れば矛盾したような2つの言葉は、蓋を開ければ同じ物なのだというヨルシカならではの表現に一曲目から鳥肌が立ちっぱなしです。

春泥棒

春といったら何を連想しますか?おそらく一番初めに思い浮かぶのは「」でしょう。桜って日本の春を象徴するのに、咲いてるのは本当に短い期間なんですよね。この曲は、時が経つ早さの儚さを表現しているように感じます。

冒頭の“最近どうも暑い”というワードは、すでに初夏へ向かっているんですね。これだけ“”を強調しながらも季節はすでに移っていく情景がこのワンフレーズに込められています。

そして“”というと新たなスタートという印象がありますが、卒業や異動などの『別れ』や『旅立ち』といったイベントもあります。この曲では後者と『時が経つ早さ』の儚さを「春泥棒」という表現しているのだと思います。

この曲のすごいところは、””とか””と言ったワードは何度も出てくるけど、『桜』『別れ』『旅立ち』というワードは一回も出てこないんです(“さよなら”出てきてましたね)。なのに聴いてる側にそう連想させる詩的な言い回しがとても素敵です。

ここからはさらに憶測になります。ラスサビの春が終わっていく様子の部分ですが、ただ春が終わる様を表現したのではないのだと思います。『葉』というのは木々の葉ということだけでなく、『言葉』をかけてるのではないかと考えました。会えるのはこれで最後、残すのは貴方に伝える『言の葉』だけ。“はらり”と想いを伝えたことで本当の“春仕舞い。もしこれが本当にそういう意図なのだとしたらめちゃくちゃ痺れますよね!!うおぉぉぉ、青春感じます…!ただ、これは完全に私の憶測なので妄想膨らませ過ぎなのかもしれませんが、なんとも綺麗な終わり方で素敵な一曲ですね。

創作

日常生活から聞こえてる音をサンプリングして、ピアノのメロディーと合わせたようなインスト曲です。

5曲中の真ん中にまさかのインスト曲です。歌詞に物語や情景を感じるヨルシカが、あえてインストにした意図とは…。

日常にこそ「創作」が転がっているとでもいうのでしょうか…。想像力、いや創造力を駆り立てる新たな表現にワクワクしますね!!

風を食む

こちらはTBS系「NEWS23」のエンディング曲で、すでに聴いたことがある人もいたのではないでしょうか。ニュース番組のタイアップとなってなのか、なんだか風刺的な表現が見受けられる作品であると感じました。

現代社会の忙しなさ、時間はいくらあっても満たされないというような描写を感じます。人の心なんてものは二の次で、どこか割り切って(”割引”して)いかないと生きていけない、なのにニュースでは都合の良いことだけを並べている現代社会の闇を皮肉ってるようにも捉えられます。

そもそも”食む”という言葉は聞き慣れませんが、文字通り「食べる、飲み込む」などの意味です。ここでいう””というのは「時の流れ」でしょうか。つまりは「時間を食べる、飲み込む」といった解釈になると思われます。

そしてこの曲の歌詞では、“天飛ぶや”や“花ぐわし”など古典的な歌詞が特徴的です。意味が分からずともなんだか詩的だし、曲の雰囲気にも合っていて十分なのですが、おそらくこの言葉のチョイスにもn-bunaさんの意図が隠れていると考えます。

天飛ぶや〜”というのは、そのフレーズだけの意味としては「空を飛ぶ雁」の意ですが、万葉集に記述されている柿本朝臣人麿が、自身の妻が亡くなった哀しみを詠った挽歌で使われています。“花ぐわし”というのは、「花が美しい」の意ですが、日本書紀に“花ぐはし 桜の愛でこと愛でば 早くは愛でず 我が愛づる子ら”という歌が存在し、簡潔にいうと「美しい桜を愛でるなら早く愛でればよかった。遅すぎた、愛しいあの人も同じだ」という意味になります。どちらも愛しい人を失った哀しい歌であることから、貴方”はもういない(亡くなっている?)のかもしれません。こういったところにも、ヨルシカなりの言葉の美しさが表現されているように感じられますね。

嘘月

Netflixで公開しているアニメーション映画の『泣きたい私は猫をかぶる』のエンディングテーマです。

(私はNetflixに加入していないので当作品を観ていないのですが・・・。)

もうこれはタイトルからずるいですよね。「ウソツキ」ですよ。n-bunaさんが自身でコメントしていたように、尾崎放哉の句が歌詞の中に散りばめられています。

もし本当に曲順に沿って時間が経過しているのであれば、5曲目は“”(この曲では“”“”に人称が変わっています。)が亡くなって時間が経過した時点であると思われます。”にわかりやすい嘘を言って笑って欲しいけど、ここには“”しか居らず、時間が経過していくことで””のことを忘れていってしまう・・・そんな印象を受けます。

これは泣けます・・・。suisさんが「観た方全員を泣かせたい」と言っていましたが、すみません、歌だけで泣けます。人間は心があるからこそ喜怒哀楽が存在するが、時というのはそれすらも風が吹くように薄れさせてしまう、そんな儚さすら言葉や歌にすることでこんなにも感動するものなのだとまざまざと感じさせられました。今回の創作の物語を締め括るに相応わしい一曲です。

全体の感想

リリース前は「今回は曲数が少ないんだな」と思っていましたが、5曲がこんなに長い曲たちだと思ったのは初めてです。それほどに内容が濃い!今作をレビューする上で歌詞をこんなにもしっかり読んだのは久しぶりでしたが、まるで小説を読み切ったような満足感や達成感を感じました。音楽でここまで物語を完成させるなんて、本当に脱帽です・・・!

何より、ヨルシカの歌メロの「間」が歌詞の情景を想像させる時間を与えてくれる気がしてとても好きです。もしかしたらそれもヨルシカのテクニックの一つなのかもしれないですね。

2021年早々からスマッシュヒットを繰り出してきたヨルシカの今後の活躍からも目が離せませんね!